腸のことを知れば知るほど、昔の自然療法の考え方が私たちの腸にはよく合っているように思います。添加物のない食物、繊維が豊富な食材をよく噛んで食べる、さらに植物性の乳酸菌をたくさん摂るようにするなどが大切だとわかります。そして、大事なことは腹八分目にしておくことです。
日本には江戸時代に書かれた『養生訓』という本があります。これは当時の高名な儒学者である貝原益軒が書いた指南書のようなもので、現代にも読み継がれています。
ちなみに貝原益軒は、満83歳9ヶ月という長寿をまっとうした人です。当時の平均寿命が現在とは比べものにならないほど短かった江戸時代に、83歳とは驚異的な長生きともいえるでしょう。
『養生訓』では、養生の第一歩として「欲」に溺れず、万事少なめを心がけようということが繰り返し書かれています。食欲、睡眠欲、性欲など、人間の欲は限りなく、放っておけばどこまでも拡大してしまうと論じられています。
そして、飲食についての記載が細かく書かれているのも特徴のひとつです。飲みすぎ、食べすぎは胃腸の健康を損なうと明記されています。また「飲食は生命の養分」として、胃弱な人は生の魚を焼いて食べるとよいとか、大根、にんじん、かぼちゃなどは薄切りにして煮るとよいなど、具体的な調理法も書いてあります。
この『養生訓』に記されている健康法は貝原益軒自身の体験から生み出されたものではありますが、人間の存在や心理、さらに世の中の動きなどを鋭くとらえて、健康と結びつけていることが偉大なのです。
簡単にいえば、食べ物や食べ方が、その人の健康を左右するばかりか、生き方や運命にも影響すると示唆しています。また漢方の世界では古くから「食養生」といい、「食べたものこそが命を養う」という考え方がありました。そこで、多くの消化器系の専門医は、腸に特化して「食養腸」という考え方を推奨しているのです。
ところが、食生活に多くの変化を繰り返してきた現在の日本において、貝原益軒の『養生訓』を実践するのは至難の業であり、まず腸の健康状態をよくする「食養腸」から始めましょう、という提案なのです。
またこの「食養腸」を意識し、腸の状態を改善することによって、それは全身の健康にもつながっていきます。体調が整えば、気持ちも元気になっていき、仕事や人間関係、趣味などにも前向きに取り組むことができるようになるのではないでしょうか。
この食養腸を実現する具体的な食材、調理方法やレシピ、食生活のヒントなどがあります。食養腸は、長寿のベースをつくるものです。食養腸なくして腸寿の実現は不可能、それほど大切な考え方です。